祈るよりも強く、想う
2009.11.13
九郎生誕記念SSその6。
- 九郎×望美
弁慶の魔の手から逃れた九郎の逃亡先は、館の主である景時の所だった。
彼も相変わらずだねぇ、と笑う男の向かいで酒を飲みつつ、そういえば、と九郎は記憶を探った。
「あの銃のようなものはお前が作ったんだろう?」
譲の作った料理を口へ運んでいた景時は、しっかりと飲み込んでから頷いた。
「ん? あぁ、花筒ね。そうだよ~」
祝いの始めに、望美が九郎へと発射させた、花を降らせる何かを、景時は『花筒』と名づけたらしい。
「すごい音がするから驚いたぞ」
撃ち殺されるかと思ったと笑えば、一瞬だけ眉のあたりを引き攣らせたものの、すぐに景時は腹を抱えて笑いだした。
「やだなぁ、そんなことするわけないじゃない。なんかね、望美ちゃんの世界では『くらっかあ』っていう、紙吹雪が散るようなモノを使ってお祝いするんだって。譲くんに仕組みを聞いて作ってみたんだ。あれは術で発射させてるんだけど――」
酔いだけが理由とは思えない饒舌さで、景時は新しい発明品の仕組みを九郎に話す。
九郎には半分どころか、筒の部分がリズ先生の手造りである、という部分しか理解できなかったが、最近重苦しい表情を浮かべることの増えた景時が楽しそうに話しているので、九郎も自然と笑みが浮かんだ。
「本当に全員を巻き込んでの騒ぎだったんだな」
「十日ほど前から用意してたんだけど、全然九郎、気付かなかったでしょ」
「ああ。何度も邸に来ていたのにな」
今思えば、リズヴァーンや望美が見つからず、将臣に手合わせをつき合わせた日も、この準備をしていたのだろう。
景時の問いに首肯すれば、景時も目を細めてうんうんと頷いた。
「九郎を驚かせるんだって、急いで、でも秘密裏にって、頑張ってたんだよ。――それだけ愛されてるってことだよね」
「なっ……」
九郎の顔が瞬時に赤く染まるのを見て、景時はゆっくりと口元に笑みを浮かべた。
先ほどまでとは違う笑みの深さに、九郎はじっと相手を見返す。
「許嫁殿なんだし。――大事にしてあげて」
その言葉が思ったより真剣な響きをはらんでいたので、九郎は思わず眉を寄せる。
「景時? どうしたんだ?」
「ん? なんでもないよ。そんなにオレが真面目な事を言うとおかしいかな」
「いや、そんなことは無いが」
「たまにはそういう気分になるんだよ。ええと、確か将臣くんが言っていたな。『せんちめんたる』な気分とかなんとか」
首を捻って見せれば、九郎は小難しげに額に皺を象った。
「戦地…面、……全く意味が分からんな」
「あはは~っ、彼らの国の言葉は、少し僕らには難しいよね」
九郎の言葉に、景時は声を立てて笑う。
「でも、オレは何か好きだな。意味はわからなくても、心に通じるものがあるような気がして」
「ふむ……確かに俺も、将臣がたまに口にする『ちゃんす』という語を覚えたぞ」
「それ、技を出す時によく彼が言ってるね」
将臣が好んでする指を鳴らす仕草を真似ながら、景時は応じる。
「ああ。単に『好機』と言うより、仲間にだけ通じる合図のようで、楽しく思う時がある。……戦の最中に、不謹慎だとは思うのだがな」
「九郎は真面目に考えすぎなんだよ~。たまには肩の力を抜きなよ。ね?」
「そんな訳にはいかん。兄上に任された使命を果たす為には、全力を尽くさなければならない」
酔いの見える口調ながらも、いつも通りの言葉を紡ぐ九郎に、景時は僅かに眦を下げる。
(ああ、九郎は本当に鎌倉殿に心酔している)
景時は過日、鎌倉から届いた書面――誰にも見せずに燃やし尽くした命令の文を思い出し、そっと拳を握り締める。
(どうしてこの願いが、届かないのだろう)
この世に神はいる。
龍神がいて、その神子たる少女たちがいて、あきらかな形をもって、その存在を知らしめている。
だけどただ祈るだけでは、人の願いなど叶わないのだと――景時は既に知ってしまっている。
(それでもね。オレは願わずにはいられないんだよ)
少しずつ生まれた歪みは、もう修復を出来ないところまで来た。
(君が知ったら、怒るかな。それとも、泣いてしまうだろうか)
もう未来は変わらない。
この血濡れた手で、神への祈りは捧げられない。だから同じ人である少女へ、秘かに想いを託す。
――いずれ訪れる決別の日に、あの優しい御曹司の傍に、君がいることを。
- END -
||| あとがき |||
弁慶と九郎、ときたら、次は景時と九郎、ですよね! 源氏ですもの。
前日の弁慶と比較して真面目な話を、と思ったら暗くなりすぎた。ただ時期的に欠かせないネタかなぁとも思うので、書いてしまいました。

