晴れた空の如く
拍手御礼SS 009 … 2010.05.04~2010.06.09まで公開
- 九郎×望美
「望美、いるか?」
ばさりと御簾を跳ね上げて、九郎は室内に入る。
本来であればやや無礼ともいえる行動だが、御簾の向こうには幾重にも几帳が重ねられており、実際には直接室内を見渡す事は叶わない。それに加え、望美が面倒な事を嫌い、御簾越しのお伺いなどといったものをやめてくれと宣言したのも、九郎が直接室内に踏み込む理由の一つだ。
「はーい、いますよ」
几帳越しに聞こえた声に、そちらへ足を踏み入れる許可を得たと解釈し、九郎は「失礼」と短く――やや几帳面に言いおいて、奥へと入って行く。交差するように二枚立てられた几帳を回り込んだところで、不意に九郎の足が止まる。
「し、失礼!」
九郎の視界に入ったのは、煌びやかな衣の裾。晴れ渡った青空のように鮮やかな蒼を湛えたそれを見た瞬間、くるりと九郎は来た方向を振り返る。
「来客中とは知らなかった」
「は? 何言ってるんですか九郎さん」
変なの、と笑う声が間近から届き、九郎は恐る恐る声の主に視線を向ける。
「のぞ、み……?」
「そうですよ。って、あぁそっか。この衣装のせいか」
からりと笑い、望美は立ち上がる。長い裾を捌く姿は案外物慣れた様子で、その事にも九郎は僅かに眼を瞠ってしまう。
「今日は怨霊退治はお休みだっていうから、ちょっと普段の服はお洗濯してるんです。そしたら、ちょっと色々遊ばれてしまいまして」
袖を持って笑ってみせる望美は、言葉ほどいまの衣装を嫌がっている様子はなく、どこか楽しげな色合いさえ滲ませている。その事を指摘すると、事も無げに望美が頷く。
「朔の見立てで、ヒノエくんが仕立を頼んでくれたそうなんですよ。それじゃ着るしかないかな、みたいな」
「ヒノエが用意したものなのか」
「は? え、なんでそっちなんです。朔が、私に似合うからって考えてくれた着物ってのが重要なんですよ。あ、勿論、綺麗な布を探してくれたヒノエくんにも感謝はしてますけど」
当然じゃないですか、と胸を張って断言する姿に、九郎は安堵と落胆が入り混じった複雑な感情を吐息に混ぜて吐き出した。
「まぁ……よく分からんが、お前が納得しているならそれでいいんだろうな」
「変な九郎さん。それで、何か用事ですか?」
「すまん、忘れる所だった」
話を促され、九郎は改めて望美と向かい合う。
「今日は休みだから、出かけないかと誘いに来たんだ」
「え? 行く行く、行きます!」
ぱぁっと華やいだ笑顔を浮かべ、望美は九郎を見上げる。
「すぐに着替えて来るから待っててください」
「何故だ? 折角似合っているのだから、そのままでもいいと思うが」
「でも動きにくいじゃないですか」
望美は足元へと視線を落とす。
床を引きずるほど長いわけでもないが、足元までしっかり覆う着物は、確かに普段望美が着ているミニスカートと比べれば、格段に歩みは遅くなるだろうし、走ったりする事は難しいだろう。
「今日は怨霊を退治に行くわけでもない。多少の動き辛さは俺が助けてやる」
「そんな迷惑――」
「迷惑などではない。どちらかといえば、俺がもう少し……見ていたいだけだ。駄目か?」
片手を差し出しながらの問いに、望美は黙って首を左右に振ると、己の手を九郎の掌に重ね合わせた。
「九郎さんがいいなら……駄目じゃない、です」
「そうか。では行くか」
望美の照れが移ったか、ほんの少しだけ眦に朱を刷きつつ、九郎は繋いだ手を引いて歩き出す。
邸を出てもずっと絡んだままの指先を、偶然出先で擦れ違った弁慶に揶揄されるのは、もう少しだけ先の出来事。そして、それでもなお離れることの無かった手に、望美は衣に描かれた青空の如く、晴れやかな笑みを一日中浮かべ続けるのだった。
- END -
||| あとがき |||
お付き合いしているわけではない、だけどなんとなくお互いに気になる。そんなふわふわした雰囲気が九望の場合には好きだったりします。
イメージ的には、ゲーム本編内の…秋あたりですかね? 夏っぽいけど熊野ではない印象なので…。
望美が着飾るとすかさず褒めるのが朱雀組や景時さん。照れつつ似合いますねというのがあっつんや譲。黙って頷くのがリズ先生で「馬子にも(ry」と言って怒られるのが将臣。
じゃあ九郎さんは? となった時の自分なりの回答が今回の拍手SSでした。