ずっと、あなたと

2009.11.09
恋愛ED(現代ED)後の二人。九郎誕生日企画でBBSに掲載したものの再録。

- 九郎×望美


 九郎が住むマンションは、一人暮らしにしては広い。
 将臣が「どうせその内二人暮らしになるんだから、広いトコにしとけ」と言ったとか言わないとか、そのへんの真実は定かではないが、有川父の伝手で安く手に入れたマンションは、何故か3DKもある。つまり十分にパーティーなどが出来るだけの場所があるということだ。
 今日も今日とて、望美は九郎の家へ押しかけている。
 望美はまだ高校生なので「二人暮し」はしていないが、週末の大半は九郎宅に宿泊だし、平日の半分は学校帰りに九郎の家へ寄って夕飯を食べ、残りの半分は九郎を連れて自宅へ帰り、両親と(時には有川家の面々も交え)ほのぼのと過ごしていた。
 ――まぁ要するに、結局の所、大体いつも一緒に居る、というわけだ。
 そしてこの日は九郎の誕生日だったので、有川兄弟が一緒に連行されてきていた。
 何が悲しくて男の、しかも大事な幼馴染を掻っ攫って行った恋敵の誕生日を祝わなきゃならんのだと文句の一つも言いたい所だが、甚だ残念なことに将臣も譲も、源九郎義経と言う人物を好ましく思っていたし、たった一人の女性の為に全てを――文字通りに名前も地位も、家族も、親友でさえも捨て、見知らぬ世界へとやってきた心意気自体は認めていた。そんなわけで、望美の願い通りに彼の誕生日を皆で祝う事になったのだった。
 譲特製の料理に、望美が一週間以上かけて迷った末、ようやく購入したケーキ。そして、異世界の京で酒の味を覚えて帰ってきた将臣が厳選した酒類という、パーティーにはお約束の物資を抱えて訪れた彼らを、九郎は驚きつつも歓迎するのだった。
 騒がしくも楽しい時間はあっという間に過ぎ、終電がなくなる前に有川兄弟は名残を惜しみつつ帰宅した。それを見送る望美は、当然のように九郎の家へお泊りである。
 普段ならば平日に彼女が泊まる事はない。今日は『特別』な日だからと、周囲を(主に、超がつくほど生真面目な九郎を、と言い換えてもいいが)説得しての宿泊なのだ。
「料理結構残っちゃったね」
 タッパーの中に残った料理を詰め込みながら、望美は笑う。
「明日の朝食にすればいいだろう。そうだ、譲がメモを置いて行ったぞ。ほら」
「ん? どれどれ……うわ、残り料理を美味しく食べるために、だって。相変わらずマメだなぁ」
 望美でも分かるようにと懇切丁寧を超え、ものすごく細かいところまで――それこそ食材を切るサイズから加熱時間まで秒単位で指示が書かれたメモを見て苦笑する。
「そんなに信用ないのかな、私の料理」
「昔は酷かったからな」
 片付いた皿をキッチンへ運びながら、九郎は喉の奥で笑いを噛み殺す。
「切るのだけは、上手いくせにな」
 剣の修業の成果を、変なところで無駄に発揮している白龍の神子である。飾り切りなどは上手いくせに、それを綺麗に煮付ける、とか、焦がさずに焼く、ということがダメなのだ。
「うっ……い、今は?」
「別に不味くはないが、何故だ?」
「だって九郎さん、どんなに失敗したって、残さず食べてくれちゃうから、本当に美味しいのか分からないんだもの」
「そりゃそうだろう。お前が俺の為にと作ってくれたものを残すことはしたくないからな。――ああ、ほら貸せ。俺が置いてくる」
 ぐずぐずと呟く望美の手からタッパーを取り上げると、さっさと冷蔵庫に仕舞う。
「お前が努力しているのを知っているからな。それだけで、俺にはとても美味しく味わえる」
「でもやっぱり、ちゃんと美味しいものを食べてもらいたいよ。もっと頑張って練習するからね」
「……練習はいいけど、あまり譲の所ばかり行くなよ」
 背中越しにやんわりと抱きしめられ、望美は与えられる温もりに微笑みながら口を開く。
「えー、まさか妬いてるんですかー?」
「そうだ。悪いか?」
 躊躇いもなく、すとんと落ちてきた言葉に、望美は絶句する。
「どうした……?」
 突如黙りこくった少女の顔を肩越しに覗きこんだ九郎は、艶やかな髪の合間から覗く頬の赤さに思わず瞬いて、彼女の名前を呼ぶ。
「望美?」
「や、その……九郎さんが謙くんにまで妬くなんていうから、すごく驚いて」
「当たり前だ。兄弟みたいなものと言っても、将臣も譲も立派な男だ。いつお前が心奪われてしまうか……いや、お前を信じていない訳ではなくて、ただ単に、お前に関してだけは、俺は相当狭量になるらしい」
 溜息交じりの告白を聞き、望美は頬の熱以上に、胸が熱くなるのを感じる。どうにかしてこの想いを伝えたくなり、望美は九郎の腕の中で身を捩ると、唇の端っこの辺りへキスをした。
 突然の口づけに、九郎の頬にもぱっと熱が伝播する。
「ふふ、九郎さんの誕生日なのに、私の方がすごい告白をもらっちゃった感じがします」
「告白?」
「うん」
 首を捻る九郎へ、望美はとっておきの笑顔を向ける。
「九郎さん、大好きだよ。来年も、その先も、ずっとずっと一緒にいようね」
 そして誓うように、そっと唇を重ね合わせた。

- END -

 

||| あとがき |||

九郎の場合、現代か、またはモンゴルか――という選択肢なので、京EDをおおっぴらに書けないのが寂しいですね。ここは一つ、迷宮ED後は京に帰って……とか思ったりもするんですが、いる場所がどこであれ、九郎さんが幸せなら、それでいいと思うのです。


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