ためいき

2009.10.09
無印本編内のどこかのお話。

- 九郎×望美


「早めに雨宿りを決めてよかったな」
 呟いて九郎は、再び視線を外へ戻す。
 返事はない。分かっていて尚、声に出してしまうのは、肩に触れる温もりが愛おしくも恥ずかしいから。
 彼の左隣で微かな寝息を立てているのは白龍の神子。
 早朝から怨霊にまつわる噂を集めてあちこち歩きまわったので、かなり疲れているのだろう。雨宿りで駆け込んだのは、人里離れた場所にぽつんと佇む廃寺で、こういう場所は盗賊の根城になりやすかったりもするのだが、幸いなことに――というのも少しおかしいのだが、長らく人が訪れた気配のない場所であった。
 そうして既に半刻あまり、雨空を眺め続けているのだが、雨は止むどころかますます強さを増している。小降りな内に邸へ戻るという選択もあったが、今となっては雨宿りを決めたことが正しかったと思えてくる。こんな大雨の中では歩くだけでも一苦労だし、濡れ鼠になって風邪をひきかねない。なにより帰った途端に、望美をこんな酷い雨のなか歩かせるなんて……という説教地獄が訪れそうだ。
 ふと、隣にある気配が身じろいだのを感じ、九郎は視線を向ける。
 己の肩に凭れるようにして眠る少女は、多少九郎が動いても目を覚ます気配は全くない。その口元は僅かにあどけなさを残して開き、真珠色の歯が微かに覗いている。
 かなり熟睡している様子の望美だが、今はほんの僅かに眉をよせ、己の肩を抱くように腕を動かしていた。
「寒いのか?」
 やはり返事はない。それでも、自身も感じる肌寒さから、推測は間違っていないだろうと確信する。
「火を焚くわけにはいかないからな……」
 暫し思案するように視線を彷徨わせた九郎は、やがて何事かを決心したように恐る恐るといった体で望美の身体を引き寄せた。胡坐をかいた膝の上に少女の身体を乗せ、眠りやすいように――と己の肩へ寄り掛からせる。そうやって腕の中へ閉じ込めるようにして抱きしめてから、九郎は深く溜息をついた。近くの壁へ寄りかかりながら、彼女を起こさずに済んだ安堵と、これだけされてなんで目が覚めないんだ、ちょっとお前気を抜きすぎじゃないのか、という理不尽な怒りを胸中で噛みしめる。
「……全く、仕方のない奴だな」
 こぼれおちる溜息は、どこか甘く。
 戦場では、ほんのかすかな物音でも目を覚ます望美の姿を、九郎はちゃんと知っている。
 こんな時だから――いや、自分ががいるから、こうやっていとけない寝顔を晒すのだと、そう信じてもいいだろうか。
「もう少し眠れ」
 顎先をくすぐる柔らかな髪へ頬を寄せて、九郎は静かに目を閉じた。

- END -


||| あとがき |||

最初から最後まで寝ている望美さん。目が覚めたら、どんな反応するんでしょうね(笑)。
台風一過で今日は素敵な天気ですが、なんとなく雨ネタ継続。男性の膝枕は色々と(略)なので、膝抱っこにしてみました。


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