あなたの傍に
2010.01.10
「君の傍に」オマケ
- ヒノエ×望美
「ね、ヒノエくん。私、買いたい物があるんだ」
手を繋いで歩きながら、望美は隣を進む人へ声をかける。
「ん? そこのショッピングセンターでいいのかい?」
「うん、大丈夫」
すぐに頷き返してくれる彼へ、礼の言葉と共に微笑を返す。
『お前以外の女から貰ったものを身につけるつもりはない』
その言葉は、裏を返せば望美からの贈り物ならば、身につけてくれる――ということ。
いつもお洒落なヒノエに、なにか装飾品を贈るということは一度も考えた事は無かった。
(でもヒノエくんが、私の選んだものをつけてくれたら……嬉しいかも?)
高い物は無理だけど、自分の選べる範囲で彼に似合うものを渡したい。
望美は一瞬だけ目を閉じ、脳裏にヒノエの容姿を思い浮かべる。
(ちょっとだけ、ヒノエくんがプレゼント魔になる気分も分かった気がする)
恋する人にどんな物が似合うだろうかと考える事が、こんなに甘く幸せな気分をもたらすのだと――望美は初めて知ったのだった。
~更にオマケ~
Your Color
買物がしたいと告げた望美が選んだのは、天然石を量り売りしているような小さなショップだった。
「装飾品でも買うのかい?」
「うん」
ヒノエの問いかけに頷き望美は真剣な表情でディスプレイを眺める。
本格的なアクセサリーショップや宝飾店は、望美の小遣いでは手の届かない価格のものしかないが、こういった店は元々ティーン年代をターゲットにした店。安いものは千円でお釣りがくるような価格から、アクセサリー類を買うことが出来るのだ。更に望美には『出来ればこれが買いたい』という石も決まっていた。
物珍しげに店内を見回すヒノエを余所に、色を吟味していた望美は、ようやく頷いて一つの品物を取り上げる。
「よし、これにしよう!」
「決めたのかい?」
「うん、買ってくるね」
ヒノエに商品を奪われ精算されてしまう前に、と大急ぎでレジで会計を済ませる。
「贈り物くらいさせてくれてもいいのに」
「ヒノエくんからは、もう貰ったからいいの」
指先で革ひもをひっかけて見せながら、望美は小さく笑う。
「それにこれは私が買わないと、意味がないんだもん」
訝しげに首を傾げたヒノエへと、買ったばかりの袋を差し出す。
「これ、ヒノエくんに私から」
「え?」
絶句し、数度瞬いたヒノエを見上げながら、望美は袋をヒノエの手に押しつける。
「壊れちゃった耳飾りの代わりにつけてくれたら嬉しいな、と思って」
「望美……」
掠れた声で望美の名を呼んだヒノエは、照れ臭そうに笑う望美の手を掴み、ぎゅっと握りしめた。
「今すぐ抱きしめて、押し倒したいくらい嬉しいよ」
「ちょっ、ヒノエくん、なに言ってるのよ!」
真っ赤になって手を振り払おうとする少女を逃がさないように引き寄せながら、ヒノエは楽しげに笑う。
「開けてみてもいいかい?」
「勿論」
望美が頷くのを確認してから手を離し、ヒノエは袋を開く。中から零れ出たのは、小さな石がついた耳飾りだ。
「へぇ、赤い石か。綺麗だね」
「赤はヒノエくんの色だから」
望美の声に頷き、ヒノエは手早く耳につける。やや長めの髪をかきあげ、己の耳朶を彼女に示す。
「どうだい、似合うかい?」
「よく似合うよ」
石自体は小さいが、ビル内の蛍光灯に反射して明るい光を放っている。
「大事にするよ」
再び手を握りしめてヒノエは甘く囁く。それに愛らしく微笑んで頷く望美の瞳が、一瞬だけ悪戯っぽい色を帯びた理由に思い当たるのは、数日後――ヒノエが熊野へと戻った後のことだった。
「おや頭領。耳飾りを変えられたんですかい」
「望美が贈ってくれたんだ。綺麗だろう?」
自慢げに笑うヒノエを見やり、副頭領は納得したように頷いて見せた。
「なるほど。確かに綺麗な緑の宝石ですね」
「……緑?」
鸚鵡返しにヒノエは呟く。その様子に相手は首を傾げて見せる。
「ええ。神子殿の瞳の色そっくりじゃないですか」
副頭領の言葉を聞き、ヒノエは慌てて己の耳から宝石を外した。ころんと手のひらに落ちた色を見れば、確かにそれは新緑のような色合いを見せていた。
「向こうで見た時は赤かったのに」
望美から受け取って以来、ヒノエは飾りを外していない。そうとなれば、思い当たるのはたった一つ。
「まさか、光で色が変わるのか?」
推測を口にしながら、ヒノエは宝石を陽に翳す。
「……ふふ、やられたよ姫君。常にお前の瞳がオレの傍に居る……っていう意味だと、思っていいんだよな」
ちゅっと音を立てて、輝く石に唇を寄せる。
「オレとお前の色に移り変わる石だなんて、しびれるくらい情熱的だね」
この石のお礼に何を贈ろうか。
ヒノエは耳飾りを無くさないようしっかり留め直すと、離れているからこそ味わえる甘い悩みを堪能するべく、そっと目を閉じた。
- END -
||| あとがき |||
「君の傍に」の望美視点です。
石のイメージはアレキサンドライトです。
太陽光の下では暗緑色、白熱灯や蝋燭などの下では赤系(紫っぽいのも多いんですが)の色に変わる石です。
今回、石の色がかなりはっきりと赤・緑に切り替わる風に描いてしまいましたが、実際は色の切り替わりがくっきり強いものは凄く高いです…。望美さんの小遣いで変えるレベルではないのですが、その辺は創作っていうことでご容赦下さい(笑)。
テーマは「たまにはやり返せ」。
(いつもヒノエに驚かされているから、たまにはやり返したい望美さんでした)

