食べさせて?
2009.10.12
「オレだけの特効薬」のオマケ話です
- ヒノエ×望美
「ヒノエくん、起きてる?」
小さな問いかけの後、少女の気配が近づいてくる。ヒノエは手枕で寝転がっていた身体を起こし、声のする方角へと顔を向けた。
少女の着物に焚き染められたものだろう。淡い花の薫りと共に、食欲をそそるような匂いが漂ってくる。
(味噌、かな? そういえば、大分時間が経った気もする)
香りからの連鎖で、そろそろ夕刻なのだろうとヒノエは推測する。
「もしかして、そろそろ夕餉の時間かい? 見えないと時間の経過って、案外分からないものなんだな」
「うん。もう日が落ちて大分経つよ。じつはもう夕ご飯は先にみんなで頂いちゃったんだ。食べる前に呼びに来たら、よく寝ているようだったし、弁慶さんも、お薬が効いているんだろうから休ませておいて欲しいって言ってたから。ごめんね」
「いや、構わないよ」
かたん、と何かを床に置く音がする。距離からして、自分のすぐ目の前だ。
「それでね、譲くんがおむすび作ってくれたから持ってきたの。これなら箸を使わなくても大丈夫でしょ?」
「さすが譲。そいつは助かるな」
手や腕の怪我ではないので、別に箸や椀物が持てないというわけではない。それでも、見えなければ箸を向ける先にも惑うし、物を倒す可能性もあるだろう。
嬉しげに笑い、歳近い仲間の気遣いに感謝する。
竹の皮に包まれた握り飯は、持った時の感触が不思議と硬い。内心で首をかしげながら口に運ぶと、パリッとした食感の後、ほんのりと甘く味噌の味がした。
声には出さなかったが、恐らく怪訝そうな顔をしたのだろう。ヒノエの表情を察して、望美が説明する。
「焼きおにぎりだよ。表面にお味噌を塗って、ほんのちょっとだけ焼いてあるの。ヒノエくんは初めて食べるかな?」
「ああ、初めてだけど、これは旨いね」
正体が分かりさえすえば、おぼつかない手で握っても壊れる様子の無いそれは食べやすく、味わい深い。少し醤も混ざっているのか、甘いだけではない味噌の味も食欲をそそる。
「あとねぇ、玉子焼きもあるんだよ」
「譲の玉子焼きか」
出汁を入れてふんわりと焼いた玉子焼きは、どうやら望美の好物らしく、しょっちゅう朝餉に出てくるおかずだ。
「食べやすいようにって、楊枝をさしてくれてあるから。はい、どうぞ」
楊枝を持ってヒノエに玉子焼きを持たせようとするが、ふと悪戯を思いついたような笑みを浮かべ、ヒノエはすいっと望美の手を抑えた。
「ヒノエくん?」
「折角だからさ、姫君」
まるで見えているんじゃないか、と思えるような危なげのなさで望美の手首を掴んだヒノエは、そのまま口元へと引き寄せた。
隠された布の向こう側で、目を細めて囁く。
「お前の手で、食べさせて?」
- End -
||| あとがき |||
思いつきで書きなぐったものなので、セリフ中心で、あまりSSっぽくない内容です…。

