何度でも選ぶ

2009.10.03
ヒノエの出てこないヒノ望な話

- ヒノエ×望美


 どんなに言葉を尽くしても言い表せない光景が、私の前に溢れている。
 それは、春爛漫。
 慣れ親しんだ神泉苑で、見上げた視界を埋め尽くすのは薄紅の花びら。
 花は桜木、人は武士――そう書いたのは誰だったか。潔く散る様が、武士の心のようなのだと、そんな風に遥か昔、学校の授業で聞いた気もする。
 そのたおやかな花びらを断つ剣技――花断ちを披露して、私は小さく息を吐く。

 これで九郎さんの隣に立つ権利は得た。もう少ししたら、リズ先生も来てくれる。
 私はまた、ここから新しい歴史を紡ぐのだ。 

 数えることすら放棄したくなるほど、幾度も重ねた京の春。八葉たちとの必然の出会いを重ねながら、少しずつ進む道を変え、見知らぬ歴史へと舳先を向ける。
 変えた先が正しい道だとは限らない。
 前よりも酷い状況に陥る事だってあった。理想まであと一歩と迫りながらも、最後の最後で全てを失った時もあった。
 あまりの絶望に、新しい時の流れへ踏み出すのを躊躇ったことだって少なくない。逆鱗を握り締めたまま、蹲り、大声で泣きじゃくって、そのまま何もかも諦めてしまおうかと思った事だって、一度や二度ではない。

 それでも、春の六波羅で告げた言葉を思い出し、私は再び立ち上がる。


 ―― 私、あなたに会いに来たんだよ ――


 熊野でしか出会えないと思っていた彼が、春の都にいる事を知ったのは、何回前の夏だったか。
 
 それ以来、絶望を抱えて立ち上がる春は、新しい未来を夢見て歩き出す春に変わった。
 ――あなたの存在が正しくこの時代にあるのだという確信を得て、悪い夢に怯える春は終わった。
 だからこの季節が何よりも綺麗なのは、あなたが私の隣にいてくれるから。新たな一歩を踏み出すための力を、あなたとの再会が支えてくれるから。


 私は武士じゃない。だから潔くなんか散ってやらない。
 足掻いて、もがいて――何度でも選びなおしながら、我侭で贅沢な未来を掴み取ってみせる。


- END -

 

||| あとがき |||

今回のSSタイトルは、恋したくなるお題配布さまの「版権お題」内『遥かなるお題』より頂きました。

今回の文だと、相手は誰でもよさそうな気がしますが、敢えてヒノエなのは、八葉の中で(普通に進めると)一番仲間になるのが遅いのがヒノエだから。

つまり、歴史を上書きし仲間を集める過程で、所在も状況も分かりにくいのがヒノエなのかなと。
熊野別当の肩書きを知って以降は多少安心した面もあるでしょうが、でも還内府とは異なり、別当職は他の人が継いでいる可能性もあるかも! って思っちゃったら、さぁ大変(何)。熊野で会うまでは、ずっとドキドキしてたんだろうなぁ~とか思ったら、こんな話になったのでした。
(ちなみに将臣は還内府の噂で、敦盛は怨霊を浄化できるのが自分だけだから安全だろう、というちょっと適当な判断で…)


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