恋、降る夜に

2009.12.30
大晦日の夜

- 弁慶×望美


「弁慶さん、こんなところにいたんですね」
「え、望美さん?」
「……っ、背中すっごく冷たい」
 背中にかかる重みに、弁慶はゆっくりと肩越しに背後を振り返る。胴に回された腕の持ち主は、翡翠色にけぶる瞳を真っ直ぐ彼へ向けていた。
「何か御用ですか?」
 柔らかく問われた声に、望美はどこか挑戦的な目つきで弁慶を見つめ返した。
「用事がなければ、弁慶さんに会いに来てはいけないの?」
「え?」
 思いもよらなかった反問に、弁慶は戸惑ったような表情で望美を見下ろした。
「まぁ用事なんて幾つだってひねり出せるんでいいですけど! もうすぐ新年だから、弁慶さんに一番にあけましておめでとうございますって言いたくてお部屋に行ったら居ないし。探してみようと歩き出せば、目当ての人は風吹きっさらしの場所でぼけっとして凍死寸前くらいに冷え切っていて、しかも『何か御用ですか』なんて聞かれて。……もういいです。どうせ弁慶さんに会いたいって思うのは私の方だけなんです。帰ります」
 胴に絡めていた腕を外し身を翻そうとした望美を、弁慶は急いで抱きとめる。逃れようとする身体を強い力で戒め、なめらかな光を放つ髪へ頬を埋めながら懇願するように囁いた。
「待って下さい。――ごめんなさい。君がそんなに可愛らしいことを考えてくれていただなんて、全く想像もしていませんでした」
「可愛くなんかないです」
「では、なんて愛らしい事を、僕の大切な神子殿は考えてくれるのだろうと……言い変えましょうか」
「言いなおしたって、なにも変わりません」
 望美はどこか不機嫌そうに眉を寄せた。
「ホント、弁慶さん冷え切ってますよ。外見てるのもいいけど、防寒くらいしてください。風邪ひいたら、謎の薬湯飲ませますよ。弁慶さんの代わりに私が薬を調合してあげます」
 勿論白龍の神子の霊験などないし、効果は保障しません、と傲慢に告げれば、弁慶は楽しげに肩を揺らして笑った。
「それも楽しそうですが、寝込んで君と共に過ごす時間が減るのは頂けませんね。ねぇ、望美さん。薬湯よりも、僕は君自身に『温めて』もらいたいな……?」
 ゆるゆると語尾を上げるようにして耳元へ問いかければ、一瞬だけぴくりと身体が震える。だが躊躇いに似た時間は、その一瞬だけで、望美はしっかりと頷きを返し、あらん限りの強さで彼の背を抱きしめた。
「弁慶さんなら、いいですよ。というより、他の誰にも、そんなことさせちゃ嫌です」
「勿論。……君以外の熱など僕には必要ありません」
 低く掠れかけた声で応じた弁慶は、そのまま互いの体温を分けあうように深く口づけた。

- END -

 

||| あとがき |||

ゲーム時間軸内のイメージです。でも大晦日あたりにEDを迎えてない、かつ、弁望ルートである…っていう条件は満たせるんでしょうか……まぁいいや。捏造、捏造。


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