君と纏う白
2009.12.25
迷宮時間軸内 「君の選ぶ白」の続き。
- 弁慶×望美
ちらりと視界を掠めた白い外套を見て、将臣は廊下の角を曲がって消えた背中に声をかけた。
「おい、弁慶! ちょっと聞きたいことが――って、あれ?」
足早に追いかけ角を曲がった先で振り向いたのは紫苑の髪をふわりと揺らす少女で、その翡翠色の瞳が不思議そうに将臣を見上げてきた。
「弁慶さんはここにはいないけど、どうかしたの?」
「あ、いや……何でもねぇよ」
将臣は首を左右に振り、それから改めて望美を見下ろした。
「つーかお前、そんなコート持ってたっけか?」
「うん。汚しやすいからあまり着た事ないけどね。似合う?」
袖口を指先で掴んでくるりと回ってみせる幼馴染の姿に、将臣は笑みを誘われながら頷いた。但し、同意したのは望美の言葉の前半の方へ――だ。
「そーだな。確かにお前、あっちこっちでぶつかったり転んだりと騒々しいからな。すぐに汚れちまいそうだ」
「うわ、酷いなぁ、そんなに転びまくってるわけじゃないのに」
「そうか? 俺が覚えてるだけでも……」
ひーふーみー、と指を折って数えだした将臣の胸元を、望美はぽかりと一つ叩いた。
「数えなくたっていいってば! んもう、先行くよっ」
くるっと踵を返し、望美は居間の方へと向かう。
「先行くって、一応ここ、俺ン家なんだけどな~」
頭の後ろで腕を組みながら、将臣も望美の後に続く。勝手知ったる他人の家、と良く言うが、望美にとって我が家同然に熟知していると言っても過言ではない有川家だ。軽い足取りで居間に入ると、転がっていたクッションを抱えてソファに腰をおろした。
「そういえば将臣くん、弁慶さんを探してたの? 何か用事だった?」
「いや、別に急ぎじゃねぇから。――ったく、そんな顔すんなよ。別にお前らの外出予定を邪魔したりはしねぇって」
「えっ!? そ、そんなことっ、誰も言ってないよっ」
「顔見りゃ分かる」
すっぱりと望美の返事を切り捨て、将臣はカフェオレの入ったマグカップを望美に渡した。
「つーか、正確には格好かな」
将臣は自分のコーヒーに口をつけながら、親指で望美のコートを指差した。
「そ・れ。よーく見ると大分違うけど、よく似てるよな。アイツのと」
「やっぱり似てると思う?」
カフェオレを吹き冷まして飲みながら、望美は問いかける。
「ああ。最初、本気で弁慶かと思ったぜ」
「あー、それで弁慶さんって呼びかけたんだ」
「そっ」
頷いた将臣は、廊下から聞こえてくる足音に顔を上げた。
「待ち人来たれりかね」
軽く笑い、手を伸ばして望美の頭をくしゃりと撫でる。
「うわっ、将臣くん……っ!」
「デート楽しんで来いよ」
にやりと笑って囁けば、正直な望美の頬は一瞬にして紅色に染まる。それを楽しげに見やってから、将臣はコーヒーのマグを片手に居間の出口へ向かう。戦に慣れた身ゆえか、それとも馴染んだ八葉の気配だからか、既に将臣には近づいてくるのが予想通り弁慶だと言うことが分かっていた。
居間の入り口で擦れ違う形になった相手へ、将臣は気軽に声をかける。
「よっ、弁慶。ちょっと確認したい事あるんだ。後でいいんで少し時間くれよ」
「ええ、それは構いませんが――急ぎの用件でしたら今の方がいいのでは?」
「いーや、別に急ぎじゃねぇから。それに、アレ待たせるとうるさいぜ」
片頬で笑い、目で居間の中を示す。釣られる様に向けた弁慶の視線が笑みの気配をうっすらと孕む。間近でうっかりそれを見てしまった将臣は、実に微妙な表情で髪をかきむしった。
「つーわけで、帰ってからでいいぜ。――今日中に帰ってくるかは知らねぇけど」
弁慶の肩をぽん、と叩いた後、将臣は自室へ向けて歩き去った。その背中を見送って、弁慶は極々小さな声で呟きを漏らす。
「………これは保護者による、外泊許可と思っていいんですかね」
まさかね、と意識を切り替えると、マグカップをテーブルにおいて立ち上がった少女の元へ足早に歩み寄る。
その脳裏には既に先程の会話は欠片も残ってはおらず、少女の纏う白い外套がどれだけ似合うか告げるための言葉を、光の速さで紡ぎだしているのであった。
- END -
||| あとがき |||
「君の選ぶ白」の続きっぽい感じで、おそろいコートで外出するの巻です。なんか弁慶全然出てないんですが(…)続きです。ええ、続きなんですってば…。

