拍手御礼再掲
拍手御礼SS 004 … 2010.01.01~2010.01.07まで公開
- 初詣
弁慶×望美<迷宮EDの多分翌年くらい>
「お待たせしました」
カタン、とドアを開けて出てきた望美を見て、弁慶は己の頬が一瞬にして緩んだのを感じた。
待ち合わせに遅れるというメールを受け取ったのが三十分ほど前。多少の遅れは予定に折り込み済みな弁慶は、家まで迎えに行く旨をすぐに返信し、待ち合わせ場所だった駅前から彼女の家を目指す。遅れる理由もきちんと聞いていたから弁慶に怒りなどないし、そもそも彼女を待つ時間すら、弁慶に取っては愛しいものなのだ。一日一日を生き抜くことで精一杯だった日々、明日という時間すら不確かな物だった過去。それが今はどうだ。約束という名の未来を縛る言葉が、これほどまでに己の心を満たすものだと、この世界で生きるようになって初めて弁慶は知った。
そして今、遅れた事に申し訳なさそうな表情を浮かべて佇む望美が纏うのは、美しい花模様が描かれた晴れ着だ。新年の初詣に着物を着る決意をしたはいいが、別の時空にある京にいた頃ならまだしも、現代鎌倉に戻ってからは着物に袖を通す機会など皆無と言っていい。朔の指導で覚えたはずの着付け知識もぐらぐらと揺らぎ、そのおかげで支度が遅れてしまったのだ。
だが、待たされた価値は十分にある。
「よくお似合いですよ」
必死に表情を引き締めながら笑いかければ、まさに大輪の花とでも称する様な笑顔が返ってきた。
「よかった! 派手かなぁと思ったんですけど」
「君はまだお若いのだから、それくらいの柄でも派手ということはないですよ。むしろ望美さんの凛とした華やかさが引き立つかな。明るい色も、真珠のような肌に映えてとても綺麗です」
「そ、それは褒めすぎ!」
さらさらと紡がれる賛辞にたじろいだ様子を見せる望美だが、無論弁慶は本心から言っているのである。
「僕の本音なのですけどね。まぁ遅くならないうちに、初詣へ行きましょうか」
歩きにくそうな彼女に手を差し伸べ自分の腕へと掴まらせると、弁慶はゆっくり歩き出した。手を繋いで歩くよりも一層近くなった距離に、望美は少しだけ戸惑ったが、あまりにも弁慶の所作が自然過ぎるため、何も言えずに大人しく従ってしまう。弁慶は弁慶で『腕組み』にしたのには理由がある。それは慣れぬ足元に望美が転んだ時この方が支えやすいから――というもの。勿論、そんなことを言ったが最後、望美が拗ねるのは間違いないので、黙って胸の内に秘めておく。
駅へ向って歩きながらの他愛のない会話の合間に、ふと弁慶は呟いた。
「そういえば、あと何回望美さんの振り袖姿を見られるのかな」
「え? 何度だって見せてあげますよ」
「ふふっ、そういう意味ではなくて」
不思議そうに首を傾げた望美の手――己の腕にかかる華奢な掌へと自分の掌を重ねながら、弁慶は稚気溢れる表情で言葉を継ぐ。
「この時代、振り袖は独身の女性しか纏わないと聞きましたよ」
「あ……」
弁慶の意味する所をようやく察し、望美は照れくさそうに俯いた。
「それは弁慶さん次第ですよ」
「そうですね」
己の腕だけで生きていけるようになったら迎えに行くから、どうかそれまで待って欲しいと――、そう望美に希った弁慶は鮮やかな表情で笑う。
作り物ではない、心からの喜びを映し出すその笑顔は、時空を超えて望美が手に入れた最大の幸福。
「本当は、すぐにでも君の袖を短くしてしまいたい所ですが、まだいまの僕では、君を迎えに行く資格がない。焦る気持ちもありますが、こうやって可愛らしい君の姿を堪能できる時間が増えると思えば……悪くないですね」
耳元に囁かれた睦言に頬を染めながら、望美は無言で愛しい人の腕にしがみついた。

||| 拍手掲載時のあとがき |||
新年最初の拍手お礼は、迷宮エンディング後の二人となりました。
お正月企画SSが、弁慶のが一番短かったので(笑)拍手を弁望にしてみただけとも言います。まぁ公開期間短い予定ですしね! いいよね!(???)
=おまけ=
弁「そういえば着物のとき、髪は結いあげるんですか?」
望「どうしようかな、迷ってるんです。こういう大きな飾りだと、アップにしてつけた方が可愛い気もするし」
弁「そうですね。でも寒いから、あまり首筋を冷やさない方がいいですよ。試験前の大事な時に風邪をひいても困りますから」
望「そっか、そうですよね。じゃあこっちの小振りのがいいかな? これなら一部分だけ結いあげて、とか出来るし」
弁「ああ、いいですね。望美さんの髪の色に映えそうです。僕、好きですよ」
望「……っ、じゃ、じゃあ…これにします」
ってな会話が一瞬浮かんだんだけど、要するに弁様、望美さんの項を他人に見せたくないだけだよね、そうだよね、とか自己ツッコミして終了になりました。
和服の項とチラリズムな足元は、萌えの重要要素です。
そんな感じで、新年から微妙なテンションの私ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
※拍手御礼掲載時に、期間限定でフリー配布(但し掲載は1/8以降より許可)をしていました。
現在、配布期間は終了しております。当時お持ち帰り下さった皆様、ありがとうございました。
