拍手御礼再掲
拍手御礼SS 001 … 2009.10.07~2009.11.08まで公開
- 雨すらも甘く
ヒノエ×望美<十六夜ED後の現代>
雨の日は憂鬱。
髪はべたべたするし、スカートのプリーツだってぐしゃぐしゃになっちゃう。水溜りを避けて歩くのも面倒くさいし、電車の中で濡れた傘が足や腕に触れるのも気分が悪い。
勿論、雨が降らないと水不足とか色々困ったことが起きるのは分かってる。
それでも、ちょっとくらい文句言ったっていいよね?
「止まないなぁ……」
雨宿りというわけではないが、少しでも小降りにならないか、と暫く教室で時間を潰していた。といっても、十分かそこらなのだけど。
諦めて帰ることにした私は、ワンタッチのそれをポンっと開いて、校門へと向かう。
(あれ?)
校門のあたりに人だかりが出来ている。正確にはカラフルな――赤やピンク、花柄、チェック……要するに可愛らしい女の子の使う傘の森が出来ていた。
既視感を覚える風景に、私は思わず足が止まりかかる。
(まさか、ね)
以前ヒノエが校門まで迎えに来た時にも、あんな感じで人垣が出来ていた事を思い出す。
「一昨日来た時、十日くらい来られないかもって言ってたし、違うよね」
うん、と頷き、私は再び歩き始める。校門を抜けかけたところで、誰かが私の名を呼ぶのが聞こえた。
「あっ、春日さん来ちゃった」
「え?」
来ちゃったって何?
疑問を口にするより早く、一つの影が私の傘の中へと飛び込んできた。思わず後ずさりかけた足を止めたのは、視界を埋める緋の色彩。
「あぁ、やっと出てきたな」
燃えるように赤い髪を揺らし、楽しげに笑うこの声は――私が聞き間違うはずのないもので。
「ヒノエくん!?」
「や、望美。遅かったな」
パチンと片目を瞑ってみせる姿に、とくんと胸の鼓動が高なる。
「待ってたんだ。一緒に帰ろうぜ」
「暫くは来られないって言ってたのに、どうして?」
「ちょっと時間が空いたから、心の栄養補給に来たよ。愛する姫君と共に過ごす時間は、オレにとって最も安らぐひと時だからね」
相変わらず立て板に水を流すような調子で言葉を紡ぐ彼をぽかんと見上げていたら、誰かの――勿論ヒノエくんを取り囲んでいた女の子だけど――声が耳を打った。
「ねぇ、もう行っちゃうの?」
引き止めるかのような言葉に、ヒノエくんはちらりと背後を振り返った。
「ああ、待ち人は来たしね。今まで付き合ってくれてありがとうな、姫君たち」
爽やかな笑顔を添えての言葉に、女の子たちから声なき悲鳴が上がったような気がした。
「それじゃあ行こうか、望美。ああ、傘はオレが持つよ。貸して?」
挨拶を終えた途端、取り囲んでいた子たちの存在を全て忘れ去ったかのように、ヒノエくんは私のことだけを見ている。恨みがましい視線がどこからか突き刺さるのを感じたけど、ヒノエくんが私の肩を抱いてくるりと方向を変えたので、誰に向けられたものかは、結局分からないで終わってしまう。ちらりとクラスメートの姿が見えた気もしたけど……、まぁ、いいか。
並んで歩き始めながら、言われるままに傘の柄をヒノエくんへ譲り渡す。その時に触れた手がすごく冷たくて、私は驚いて彼の顔を見上げた。
「ヒノエくん」
「なんだい?」
「ゴメンね。こんなに手が冷たくなって……。どれ位待っていてくれたの?」
傘を持ってくれる腕に手をかければ、シャツはしっとりと水分を含み、かなり長く外にいただろう事を窺わせた。
雨を面倒がらずに、早く校舎を出ていればよかった。
後悔先に立たずって言うけれど、まさに私は悔しいやら悲しいやら、そんな申し訳ない気分で一杯だった。
「さぁてね。姫君を待つ時間はあっという間に過ぎるから、覚えていないね」
軽く笑って誤魔化そうとする彼に、私は咎めるような視線を向けた。
「待っててくれるのは嬉しいけど、風邪をひいたら困るのはヒノエくんだよ? 熊野での仕事もあるのに……無理はしないで欲しいよ」
「心配してくれるのかい?」
「当たり前でしょ!」
心配しない筈なんて無い。
時空を隔てている間、熊野にいるヒノエくんの様子を知る事は出来ない。
大きな戦は終わったとはいえ、ヒノエくんを取り囲む危険はいくつだってある。こちらでは放って置いても治るような単純な風邪も、あの世界では命を落す可能性だってあるのだ。
「す、好きな人を心配しない女の子なんて、いないよ」
腕にぎゅっとしがみついたら、耳元に小さくキスが降ってきた。
「それじゃあさ――」
耳朶を震わせる声は、蕩けるような響き。
「抱きしめて、暖めてくれるかい?」
――冷えた身体に、お前の熱が移るまで――
雨音に紛れるようにして囁かれた言葉に、私は頬の熱さを自覚しながら小さく頷き返した。
||| 拍手掲載時のあとがき |||
FC2blogでも拍手お礼が置けるっぽいので、置いてみました。台風が来るらしいので(2009.10.7現在…)時事ネタっぽく雨の話に。
というか、ヒノエは自分の傘はどうしたんでしょう…。
雨に濡れるのも気にせず校門で待っていて、通りかかった女の子が見かねて傘に入れてくれている間に人垣が…って感じでしょうか。
||| 再録に際してのあとがき |||
読み直せば、すごく珍しい「望美一人称」でした。
時折ぼやいていますが、実は一人称がすごく苦手です。その割には、この文章は大分頑張ったかも! と思います(笑)。少なくとも、前に書いたヒノエ一人称よりずっとマシに見える…。